銀行めぐり

 ピカピカの小学校1年生!登校は姉たちに任せるにしても、下校はお迎えが必要だろうと覚悟していました。最低1年かなぁ?なんて思っていたら、特学の先生のご指導のおかげで、5月末には“自主下校”できるようになってしまいました。初めの頃は、“一人で帰る”ことに良い緊張感を持って、一生懸命取り組んでいるようでした。ところが、それにも慣れてきた頃・・・何でも“慣れた頃が一番危ない!”その通りでした。
 初めて寄り道をしたのが秋のバス遠足の帰りでした。これまでずっと、私か先生(いわゆる大人)の監視の中で過ごしていたKATに、初めて与えられた自由な時間が“下校時間”だったのです。そして、その日は遠足の為“自由服での登校”だったので、気持ちにも余裕があったのだろうと思います。でも、行った場所が問題でした。
 もともと機械好きで、キャッシュディスペンサーにとても興味を持っていたKATが、寄り道に選んだ場所は“銀行”でした。しかし、それは直接現金を扱っている場所で、子供とはいえ側をウロウロされて気持ちの良いものではありません。しかも、嬉しそうに手足をバタバタさせながら、奇声をあげている様子はやっぱり異様です。
 この地域の小学校は、向かい側の通りに5件の銀行・郵便局が並んでいる(現在は3件)という、KATにとっては絶好のロケーションなのです。ほとんど毎日寄り道して、一旦治まったと思ったら、半月ほどしてまた再開して・・・という感じでしたが、約2ヶ月続いた“銀行めぐり”は、寒い季節の訪れと同時に終わりました(もし、始めたのがだったら・・・と思うとゾッとしますが)。

 今の私だったら、本人の写真とか連絡先とかを持っていって、銀行の方に理解を求めたかもしれません。でも、その頃の私には、まだそんな勇気も知恵もなく、特学の先生にお任せする形になってしました。私がしたことは一つだけ、キャッシュディスペンサーを触りたいのだろうと思ったので、「お母さんと一緒に行った時だけ、触っても良い!」という約束でした。
 ただ、とても残念だと思ったのは、ランドセルを担いだ小学生(見るからに1年生)が、下校らしき時間に銀行に入ってくるのを見て、他の大人が誰も注意してくれなかったことでした。それこそ、子供(クラスメート)たちは、一生懸命止めようとしてくれたり、銀行の人に謝ってくれた子もいたのです。確かに一言二言言った位でわかる子ではありません。言葉の通じない子に思えるかもしれません。でも、こちらが真剣に伝えようとしたことは、言葉がわからなくても気持ちが通じるものだと思います。冷たい視線を浴びせるだけの周りの対応は、本人には全く何も伝わっていない・・・だって、自閉っ子ですから・・・。
 でも、やっぱりこの時一番何もしなかったのは、“母”である私だったことは言うまでもありません。あの時、一生懸命関わってくださった皆さん、本当にごめんなさい。そして、ありがとうございました。