石投げ

これはあまり思い出したくない事件・・・小学校6年生の時でした。

 その頃、KATは毎日3:10~4:00まで一人で自転車に乗って遊びに行っていました。平日はほとんどまた小学校に戻って、特学の教室で遊んでいたのですが、学校がお休みの日は、公園や近所をブラブラしているようでした。その日は土曜日で、いつものように遊びに行ったKATが、慌てた様子で「石を投げました!」と言いながら帰ってきました。「どこで?」と聞きながら、そこまで一緒に行こうと歩いていると、途中で反対から歩いてきた男の方から「その子のお母さんですか?」と声をかけられました。話を伺うと、体育館の前で車が通る度に、道路に石を投げていたそうです。その方が注意すると「逃げて行った」ので、後を追って来られたということでした。お詫びをした上で、「この子はコミュニケーションに障碍があり、初対面の方の声かけに答えられない。特に叱られるような場面では、言われている言葉の意味を理解できないので、逃げたのではなく私に報告しに来たのだと思う。(自転車で出かけたのに、自転車をそこに置いて、走って帰ってきていたので)」とお話すると、理解してくださり、その方から詳しい状況を教えていたきました。石を投げていたことを改めてお詫びし、注意していただいたことにお礼を言って、その方と別れました。
 家に帰って、筆談で話しました。実は半年前にも同じ事をしていたことがあり、「もう石は投げません」と約束していました(その時は口頭だけで)。それでもまた…ということは、前の約束は理解できていなかったということです。私も二度目ということが大きなショックで、「どうして石を投げるのか?」を本人から聞きたいと思いました。いろいろ聞いていく中で「石を投げるのが楽しい」と言います。「石を投げる事は悪いことだ」と教えても、やっぱり「楽しい」と言います。このままではいつかまたやる!と思い、どうしたらいいのか一生懸命考えました。
 もう一度KATと一緒に現場へ行きました。どんな石を投げていたのか聞いて石を拾わせました。そして、「石を投げるのは楽しいですか?」と聞くと、「楽しいです」と言うので「じゃあ投げてごらん」と言いました。すると、本当に嬉しそうに、車が通り過ぎた後、石を投げました。その瞬間、ものすごい剣幕で叱りました!すると途端にKATの顔が変わり、「楽しくないです。石を投げません。」と言いました。それまで長い時間話していた内容が、そこでやっと繋がって、何を叱られていたのか理解したようでした。その後、私が石を拾い「投げていいよ」と言って渡しても、「投げません」と言って、ソーッと道に置きました。
 してはいけない事を教える時・・・KATには現行犯じゃないとダメなんだ!と痛感しました。後から話しても、ある程度思い出したり、漠然とわかったりするのでしょうが、それを今話している内容と結び付けることはとても難しいことなのです。
 それから、その話をSTの先生に伝えた時に、「どうしてそんなことをしたんでしょう?」と聞かれました。もちろん「楽しいから」なのですが、でもそれまでしばらくしていなかったのに、またするようになった原因があるはずです。思い当たることがありました!数日前にあった遠足・・・長い道のりを川に石を投げて遊んだりしながら歩いたと聞いていました。川には石を投げてもいい・・・でも、道路に石を投げてはいけない・・・自閉っ子の思考回路はそんな臨機応変ではないのです。
 そしてもう一つ、「別に何かすることがあってもやっぱりしたでしょうか?」とも聞かれました。着目したのは、自転車での外出は4時まで!=4時に帰らなくてはいけない!と思っていることです。一通りしたいことが終わって時間があったから、何もすることがなくて石投げをしたのだとしたら、“何もすることがなくなったら、家に帰ってきても良いんだよ!”ということを教えてあげなければいけないのです。それを茶の間の週間スケジュールに明記しました。
 その後、今日まで“石投げ”をすることはありません!